■ 世界遊戯紀行



■ 葡京娯楽場の牌九 ■

天九牌・至尊

牌九(パイガウ)で使用される天九牌(ティンガウパイ)の電飾


  取り敢えず、マカオでは、おそらく殆どすべてのカジノに足を踏み入れ、殆どのゲームを遊んだと思う。
 
その中でも一際熱く、鉄火場の雰囲気を漂わせていたのは、葡京娯楽場(リスボア)の牌九(パイガウ)コーナーであったと断言できる。
  昼間はそれ程でもないのだが、深夜の時間に近付くにあたって、毎日この場にやってくる牌九常連プレイヤー達が続々と姿を現し、牌九のテーブルは人と熱気で溢れかえるようになる。
  ここではカジノ側が庄(親)を取ることはまれで、客が庄を取って玩家(子)と勝負をするのが普通 である。
  その為、庄を取った客は勝利時の配当と同様にリスクが大きいので、気合いの入りかたが半端ではない。
  ディーラーが積んだ牌山を気が済むまで何度も崩させ、庄を示す大きなマーカーを場に何度も叩き付け、手牌の分けにもたついたプレイヤーにプレッシャーを与えるのは毎回のことだ。
  この牌九は、他に回力娯楽場(ハイアライ)という老舗カジノ
にも存在するが、場の盛り上がりでいったら葡京娯楽場のほうが遥かに上である。






葡京牌九
 

  この牌九が行われている葡京娯楽場は、隣にある新葡京(グランドリスボア)の豪華で明るく綺麗なイメージとは全く異なり、見た目にもグロテスクな色彩 の電飾に彩られ、昔のSF映画で近未来の風俗街にある悪の巣窟として登場しそうな外観をしている。
 
マカオに存在する大手カジノは殆どが分煙であるが、この葡京の牌九コーナーでは喫煙が許されているばかりか、吸い殻や灰も床に落とし放題である。
  さらにそれだけでなく、落花生の皮やひまわり、スイカの種といった中国らしい食べカスも床に散らかっているという、まさにマナーの無法地帯である。
  集まっている客層も、殆どが癖のありそうな中年か、若いチンピラ風情のプロ臭が漂う男ばかりで、女性の客は殆ど寄り付かないエリアとなっている。
 
深夜過ぎに、いかにも悪そうなこの葡京に入った私は、今まで訪れたやカジノや賭場では感じたことのない程の熱気と喧噪を、フロアの一角から感じた。
  そこでは多くの人間がテーブルをぐるりと取り囲み、大きな歓声を上げているばかりか、何かをガンガンとぶつけているような激しい音も響き渡り、やけにうるさく盛り上がっている場所であった。
  近寄って見ると、親と思われる客が、金属製のカップを大きなマーカーに「
ガーン!ガーン!ガーン!」と激しく叩き付けてダイスを振っていた。
  やがて牌が配られ、親が手牌をマーカーに勢いよく叩き付けて公開する時になると、一斉に気迫のこもったかけ声が上がり、場の温度が一気に急上昇した。
  この激しいアクションと、一体感を伴った大きな盛り上がりを目の当たりにした私は、一気にこのゲームに魅入られ、連日連夜葡京の牌九コーナーに足を運ぶようになった。


葡京娯楽場の牌九   葡京娯楽場の牌九
葡京娯楽場はカジノだけではなくホテルも兼ねている
 
怪しい色彩に彩られる深夜の葡京娯楽場



 ある程度、日本で牌九のルールを把握していた私は、この葡京の牌九に直ぐさま参加してみたかったのだが、ゲームの流れと正確な規定を熟知しておかなければ賭けても痛い目にあうだけだと思い、人垣の中でメモを取りながら、注意深くプレイの流れを見守ることにした。
  しかし、ガラの悪い連中の間に入って、プレイを盗み見しながらコソコソとメモを取っていたら、顔に刃物の傷があるイッセー尾形似の中年男に見咎められ、広東語で文句を付けられてしまった。
  言葉が解らないので、普通語で「なんでもないですよ」と言うと、「なにが何でもないだ!」と普通 語で凄まれ、ルールをメモしていた手帳をひったくられてしまった。
  慌てて「私は牌九の遊び方を調べているだけだ」と言うと、その刀傷男は、「遊び方が知りたければ、そこにルールが書いてあるのがあるぞ」と、近くに置かれた牌九のリーフレットを指差し、「オマエはどこから来た?」と訊ねてきたので、「私は日本から来た」と言うと、その男は、「日本人か。この牌九はナンバーワンのゲームだ!お前もやってみろ」と、親指と唇を突き出して私に言い、手帳をようやく返してくれた。
  内心安堵した私は適当な笑顔でお茶を濁し、ゲームのすべてを把握するべく、再びプレイの流れを見守ることにした。

 


葡京娯楽場の牌九

深夜の葡萄京娯楽場(カジノ・リスボア)は、一際派手な電飾で人目を引いている




葡京牌九玩法

  私が葡京で見た牌九のルールであるが、まず庄(親)を決定することから始め、庄が名乗り出たら、ディーラーは、庄の前に「地庄」と記された表札の倍ぐらいの分厚いプラスチックのマーカーを置き、そこから右周りに1〜7の番号が記された札を順に並べる。
  因に、誰も庄を名乗り出ない場合は、カジノ側であるディーラーが「公庄」と記されたマーカーを自分の前に置き、そこから右周りに1〜7の番号を並べていた。
  玩家(子)である参加者は、まずその札に、それぞれチップを置いて賭けていた。テーブルの正面 に立つディーラーは、牌を4段8列に組み、玩家が全員賭けるのを黙ってじっとみつめている。
  やがて、番号札の所にすべての玩家が張り終わったのを見計らい、ディーラーは庄に積み上げた牌を崩させ、牌の切り方を口頭で好きなだけ指定させる。
  この牌の切り方には色々あるようで、間を一つずつ開けて入れ替えろだの、上下をすべて入れ替えろだの、庄は気迫のこもった広東語でディーラーにあれこれと何度も指示をする。
  牌を切る作業が一通り終わったら、今度は、最初に配る牌の取り出す位 置を庄が指定する。
  これも数種類あり、左右の端から、真ん中から、2段組にして左右から、2段組にして真ん中から、などと、すべて広東語で庄がディーラーに指示をする。
  なので、マカオで牌九の庄を取る場合は、ある程度、この牌九用の広東語を憶えておく必要があるかもしれない。

 


天九牌・牌九

マカオ公式の牌九リーフレット。牌九のルール詳細が記されている。



 最初に取り出す牌の位置を庄が伝えたら、ディーラーは、その位 置にある牌を、牌の半分程前にずらしておく。
  その作業の後、庄は四個の骰子が入ったダイスカップを振る。
  このダイスカップを振る動作は、見た目、音ともに非常にダイナミックである。
  どのプレイヤーも、地庄と記されたマーカーの上に金属製ダイスカップを気合いを込めて3〜5回叩き付けるので、「ガシャーン!ガシャーン!ガシャーン!」という激突音が、振動と共にテーブル全体に響き渡る。
  庄がカップを開け公開すると、その出目が電光掲示板に表示され、 ディーラーはその数を庄から右周りに数え、止まった場所から右周りに牌を4枚ずつ配り始める。
  庄に配られた牌は、透明のケースをかぶせ、誰にも触れられないようにしておく。
  玩家は配られた4枚の牌を、ランクに従って強い手と弱い手に分け、分け終わったら自分から見て左に強い組合わせ、右に弱い組合わせという2列を場に置き、その上に自分の番号札を乗せる。
  この間、庄は玩家が手を分けるのを待っているのだが、分牌に時間が掛かっている時は、地庄のマーカーを場に3〜5回、「ガーン!ガーン!ガーン!」と、激しく叩き付け、もたついた玩家をせかすことができる。
  玩家がすべて賭け終わったら、ディーラーが庄の牌にかぶせてある透明ケースを取り、庄の分け牌が始まる。
  この時、庄はまず自分の前に置かれた地庄のマーカーに、まず二枚の牌を叩き付けて公開し、目を考慮したら、三枚目の牌を開いて勢いよく置く。
 
そして、勿体つけるようにして四枚目の牌を表にして叩き付けるのだが、この時、玩家達から一斉にかけ声が上がり、場の空気は最高潮に達する。
  四枚の牌が開かれたら、庄はマーカーの上で強い手と弱い手の組合わせを作り、それが終わったら、ディーラーが庄の右隣から一斉に牌を開いて行く。 この時、強い組の牌と、弱い組の牌は、それぞれに対して横に直角に向けられる。
  ディーラーは、 庄の強手と弱手を玩家の牌を比べて、両組とも庄に勝っていた場合のみ、賭けた同額を配当として玩家に渡す。
  もし、片方の組だけ勝っていた場合は引き分けとなり、賭けていたチップは玩家に返され、両組とも庄の牌より弱かった場合は負けとなり、賭け額はディーラーに没収される。



天九牌・牌九の詳細はコチラ→天九牌・牌九



天九牌

天九牌

天九牌は1セットが三十二枚で、文牌と武牌という2種の牌で構成される


天九牌の詳細はコチラ→天九牌




葡京の牌九

 牌九に出会った初日は、人数の多さと玄人筋の熱気に押され、とても賭けることは出来なかった。
  その夜は人の背中越しでプレイを見守るのみであったが、牌九の迫力あるゲーム展開は、見ているだけでも充分に楽しいものであった。
  翌日の深夜も葡京の牌九コーナーを訪れたのだが、私の手帳を取り上げた刀傷男を含め、昨日見たガラの悪い顔達ががほぼ全員そこに勢揃いしていた。
  また、週末だったので、珠海のイミグレーションを通りやって来たと思われる、背が高くてゴツい角刈りの本土中国人の姿も多く見受けられた。
  牌九テーブルはまたもや人で溢れ、大人数の背中から割り込んでチップを置いて賭けるなど不可能であった。
  仕方がないので、私は合間に魚蝦蟹や大小、バカラなどをしては牌九のテーブルに戻り、賭けるタイミングを伺うことにした。
  しかし、一つのテーブルでじっくりと勝負せずに、安いレートでフラフラと賭けていたので、負けの数が多くなり、これではまずいと思い、ツキを呼びそうな好みの女性ディーラーがいる大小テーブルに腰を据えることにした。
  大小は、自分の中では一番感覚が合うと自覚している賭博であり、今までに一番多く賭けたことのあるゲームでもある。
  私の傾向は、最初は大・小という二分の一の配当には賭けず、三個のサイコロの出目と合計数に毎回二〜四種類ほど賭け、出目の傾向と流れを探りながら賭けのバリエーションを増やし、勝負を進めていくというものである。
  この時はうまく流れを掴み、序盤は勝ちを積み重ねることが出来たのだが、どうも目が小に偏り過ぎていることに気付き、毎回必ず小が関係する系統の場所に小額ずつ張ることにした。
  これが功を奏し、ミニマム100HKドル(約1600円)のテーブルで、5万円近く勝つことができた。やがて流れが悪くなり、一万円以上負けたところで賭けをストップし、宿に戻ることにした。

 

葡京娯楽場の牌九   葡京娯楽場の牌九

葡京の隣に存在する新葡京。葡京とは違い豪華で綺麗

 
暗くなると毒々しい電飾が点る葡京


 翌日、昼前にマカオのイミグレーションを通 り、中国の珠海を観光し、宿に戻って英気を養った後、再び夜の葡京を訪れた。
  牌九は相変わらず同じ顔が勢揃いして、うるさく熱い戦いを繰り広げていた。
  昨日の大小の勝利で稼いだ金を元手に、牌九を今日こそは試みようと思っていたのだが、相変わらずテーブルは人で溢れ、背中越しにプレイを見守ることしか出来なかった。
  仕方ないのでしばらく戦況を見守った後、昨日勝利した大小のテーブルに移動して賭けを開始したのだが、 大きな気持ちになっていたので、流れを掴む前に勝負を急いでしまい、一気に大きく負けてしまった。
  やはり賭事は運にまかせて一気に勝負をかけてはならない 。
  最初は焦らずに少額ずつ張り続け、流れの中で徐々に機を窺って勝負に出なければならない。
  負けてそのことを痛感したが、もう後の祭りである。
  私は情けなく途方に暮れ、カジノを出ようとしたが、残りのチップが牌九のミニマムベッドより少し多い位 だったので、勝っても負けてもこれで終にしようと、牌九のテーブルに向かい、賭けるチャンスを伺った。

 

葡京娯楽場の牌九
 
 何度か庄が交代したある時、私は意を決して人垣の隙間を掻き分け、牌九のテーブル前に身を置くことが出来た。そして目の前の番号札に、最後の手持ちチップを置き、ようやく牌九をプレイすることが出来た。
  牌が配られ、手を分ける時には頭の中に入れていたランクが吹っ飛んでしまい、とにかく九に近い組み合わせを作ろうと無我夢中であった。
  手は八か七か六か何か忘れたが、片方負けて片方で勝ち、取り敢えず引き分けに終わった。
  最後のチップを失うことを免れ、初めての牌九勝負による緊張感から解放された私は、安堵の気持ちから勝負を続行せず、逃げるように卓を後にした。
  手持ちのチップを換金し、葡京を出た時、牌九という熱い温度の中で、ただ一度だけでも勝負が出来たということに興奮し、深い充実感を覚えていた。

新葡京はさらにホテルを増設中だ

 



天九牌の詳細はコチラ→天九牌
  天九牌・牌九の詳細はコチラ→天九牌・牌九



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